異聞録第7回
光風暦471年6月11日:追跡の果てに
林道を進む四人の男女。
黒髪の妙齢の男女一人ずつに、波打つ金髪の少女、そしてゆったりした長衣をまとった銀髪の細身の男。
今日も今日とてジョーを追う二体の悪魔、ディクセンとユーノ、ここレグナサウト王国の東部防衛軍を束ねる「東方の衛士」イングリット。そしてもう一人は、ジョーに敗れたイヴァクセン・フォーラである。
フォーラの顔だちはこれまで明らかでなかったが、今は素顔をさらして歩いている。もっとも彼の行動は、呪いじみたジョーの術によって半ば操られているため、それが本人の意思によるものかどうかは分からないが。
ともあれ白日のもとで見るフォーラは、物腰の落ち着いた初老の紳士に見えた。それがディクセン達に警戒心を抱かせないことにもつながっているようだ。
「さて、もうすぐハーリバーンの町だ。気合い入れて行くぞ!」
突出した気の吐きようを見せているのは、ここでもディクセンだった。
「はいはい。今度は見つかるといいわねえ」
そばにいるだけで気疲れしそうなほどの彼の元気をやり過ごしながら、ユーノがそう言う。手をひらひらさせて、彼をあしらっていたりもする。
彼女自身も、自分を打ち倒したジョーの正体を知りたいのは確かだ。しかし、行動はそれとは裏腹である。素直でないのだ。
そんな二人に、フォーラが言葉をかける。
「早く会えるといいものです、あの素晴らしいジョー様に」
本心が言葉にならず、その真逆が口から出るのは相変わらずのようだ。
「その『素晴らしい』と『様』は余計だぜ、フォーラさん」
「(まったくもって同感だ、悪魔よ)」
ディクセンに対してうなずくことすらできず、心の中で嘆くフォーラであった。
その時、遠くからものすごい轟音が響いてきた。
「何かが崩れる音ね。しかもかなりの規模みたい」
ユーノが冷静に分析する。
「ハーリバーンの方向とは、ちょっとずれてますね。もうすこし、このまま進んでみましょう」
イングリットの口調は、ここでものんびりだ。もちろん、ふざけた様子ではないのだが。
そして進むうちに、ほどなく轟音がもう一度。そしてしばらく空いて、さらに二度。
「戦闘かもしれませんね」
とフォーラが言った。一同はうなずく。
「よし、行ってみよう。もう町もすぐそこだし、ちょっと寄り道したって迷うことはないさ」
言うが早いか、ディクセンは方向転換する。
「ちょっと待ちなさいよ! あなたこの前、道に迷ったところでしょう!」
ユーノが言っても聞きはしない。結局ディクセンに導かれるがまま、ユーノ達も街道を逸れ、ぞろぞろと傍らの林の中に分け入った。
「おっ、開けたところに出るぞ……って、おいおい」
先を行くディクセンが、不意に立ち止まった。尋常でないほどに驚いている。
「どうしたんですか、ディクセンさん?」
追いつきながらイングリットが尋ねる。
ディクセンは、振り向くことなく言った。
「まさかこんなところで。本当かよ」
何があったのかと、三人はディクセンの横から顔をのぞかせる。
その先には、彼らと同じく四人の男女がいた。彼らは一様に、言いようのない悲壮感を漂わせていたが、ディクセンの注目はその点にではなく、その中の二人に向けられていた。
「エブリット様! そして、ジョーと一緒にいた戦士!」
まっすぐな性分のディクセンは、隠れて様子を伺うこともせず、前に出てそう叫んだ。
そこにいたのは、ランス、エブリット、エリシア、そしてエドワード。ディクセン達は、クローディアが連れ去られた直後の現場に流れ着いたのだった。