第14回
光風暦471年6月11日:ようこそ戦士達
「ディクセン? それにユーノ?」
クローディアが連れ去られた現場に、間もなく四人の男女が現れた。その中に見知った部下の(人間に化けた)顔を認めたエブリットが、驚きの声を上げる。
驚いたのは彼だけではない。
「イングリット!」
「イングリット殿!」
「エドワード様! ランスさんも!」
これはランス、エドワード、そしてイングリット。
「あなたは……フォーラですね。なぜここに?」
これはエリシア。フォーラの正体には彼女だけが気づいたが、異世界神に仕える者としては様子がおかしいことを悟り、それ以上は口をつぐんでいる。
このように境遇は様々であるが、顔見知りの多い鉢合わせとなった。
そして互いの状況を知るため、ディクセンがこれまでのことを話し始めると、ここにさらに二人の男が合流した。イルバランの町からディクセン達と別動してジョーを追っている戦士、ダンとナイだ。
彼らも轟音を聞きつけ、ハーリバーンからここに来たとのことであった。
「ずいぶんな人数で、ジョーのことを追っていたのですね、ディクセン、ユーノ」
いつものエブリットなら、その言葉にずいぶんな皮肉を交えていただろうが、今の彼にはそうできるほどの元気が感じられない。あり得ないほど消沈している。
「どうされたのです、エブリット様。あなたらしくもないですね」
いぶかしんで、ユーノが尋ねた。
「クローディアさんが、異世界神テュエールに連れ去られました。そしてあなた達が追っているジョーも、そのテュエールに」
そう言うエブリットは、とても悔しそうだった。己の無力さを嘆いているのだろうか。それとも、失った二人のことを思っているのだろうか。
「異世界神!? そして、ジョーが異世界神にとは?」
意外な敵の存在に驚くユーノ。
「そんな!」
そう叫んだのはディクセンだった。
「異世界神だか何だか知らないが、俺を軽々と倒したあの男が、そんなに簡単に負けるのかよ!? そんなの認めないぞ、俺は!」
拳を振るわせて、怒りを露わにしている。ジョー憎しの一心で彼を追っているはずのディクセンだったが、いつしかその心境にゆらぎが生じているようだった。
すると、これに強い口調でフォーラが賛同した。
「そうです。相手がどれほど強くとも、ジョー様が簡単に負けることなど! そのようなことなど、私も認めません!」
実はこれは、フォーラの本心だった。「様」付けはともかくとして。ジョーに敗れて以来、初めて本心が自然と口から流れ出た瞬間だった。
フォーラもディクセンも、自分を軽々と破ったジョーを強者として認めているのだ。そこにある感情は、憎しみだけではなかった。
「私も、ジョー様が亡くなってはいないと信じます。必ず再会できるはずです。そうですよね、ランス様」
そう言って、エリシアが彼らを励ます。
「うん。ジョーは希望を捨てるなと言った。だから僕はそうする。まだできることはある」
ランスもきっぱりと宣言した。そして彼はエブリットに語りかけた。
「エブリット、みんな、落ち込むのはここまでだ。ジョーがエブリットに託したその剣、『勝者の剣』も、きっと僕達に勇気を分けてくれるはずだよ」
「『勝者の剣』。その名前、聞いたことがあります。この剣の正体は、主神オーゼスが作った伝説の『聖なる武器』の一振りなのですね。そしてジョーの正体は」
託された「勝者の剣」を抱くようにして見つめながら、エブリットはつぶやいた。
そしてイングリットが、感慨深げにこう言った。
「やはりそうでしたか。わたしたちが追っていたジョーさんは、ただの戦士ではなかった。ジョーさんの正体は」
そこまで言った彼女は、エブリット達を力づけるように、あえてはっきりと続きを言葉にした。
「『運命の戦士』の一人『命戦士』にして、隣国フォルテンガイムにあるゼプタンツ王国の王。セイリーズ・ジョージフ・ドルトン陛下」
ディクセンとユーノは、その言葉にたまげた。そして、ダンやナイも仰天し、頓狂な声で発言した。
「彼が王。そして、神にも等しき『運命の戦士』なのですか!?」
「『運命の戦士』。俺達が勝てないのも道理だ。いや、勝てるわけがない!」
腰を抜かすほど驚きながらも、そう口々に叫んだナイやダンは、どこか嬉しそうに見えた。
「まったく。私達、とんでもない奴に絡んじゃったものね」
「へっ、上等じゃないか。こいつは殺しても死なないタマだぜ。やっぱり奴を倒すのは俺様だな」
そう言ったユーノとディクセンの顔にも、やはり笑みが見える。
彼らの変わりようの早さに、思わずエドワードも頬を緩めた。
「それには、私達も精進しなければなりませんね。ランスの言うように、私達にはまだできることがあります。
イングリット殿、ともにこの方々を王城へ案内しましょう」
「はい、エドワード様」
イングリットはそう言って、エドワードに深く頭を下げた。彼女の頬にほのかに朱がさしているところを見ると、この恭順は上下関係からくるものではないようだ。しかし当のエドワードは、まったくそれに気づいていないようだが。
そんな二人を微笑ましく眺めてから、ランスは言った。
「僕も『雷光の騎士』の一人として、そして神と戦った『運命の戦士達(フェイタル・ウォーリアーズ)』の一人として、精一杯のことをするよ。
全力でみんなを支えるし、みんなにも支えられることになると思う。
僕達は運命をともにする仲間同士だから。そして運命を切り開く仲間同士だから」
そして一呼吸置いて、一同に言った。
「ようこそ、『運命の戦士達(フェイタル・ウォーリアーズ)』へ」
-完・第5部へ続く-