第11回
光風暦471年10月1日:光の戦士
ジョーの発言に、その場の全員が驚いた。
「ジョー。過去のそなたに聞いた『光の戦士』とは」
クローディアが思わず、そう発言した。
過去のジョーは、『光の戦士』はダリス山脈に眠っていると言っていた。ここにいるのはその戦士ではなく、間違いなくジョーだ。いったいどういうことなのか、彼女には理解できなかった。
すぐさま、テュエールもジョーを揶揄する。
「神ならぬ者で神を滅ぼせるのは、神の守護戦士だけだ。『光の戦士』なんて、単なる伝説上の存在だ。君の装備が発する光だって、まやかしに決まってる」
そして。
「こけおどしだ!」
と叫びながら彼は、今までとまるで違う速さでジョーに斬り込んだ。しかしジョーも、難なく剣を合わせる。
あまりの衝撃に、雷かと思うほどの火花が飛び散る。
ジョーは、二柱の神に対して答えた。
「この際だから大公開しておく。『光の戦士』は4人いる」
再び一同に衝撃が走る。
「一人は俺。そして二人が、この国の別の戦場で、他の異世界神を次々と封じている。そのうちの一人が、さっきのバートラムだ。
そしてもう一人、俺に『時空剣』を教えてくれた戦士がいる。もっともこの戦士は、未来の真打ちに備えて眠ったままだけどな」
「何だ、その未来の真打ちって! 目前の僕をなめるな!」
テュエールが素早く飛びすさり、すぐさま次の攻撃を仕掛ける。飛び込みざまに、音速をはるかに超える突きを繰り出す。
しかしこれも、ジョーが倍以上の速さで剣を絡め、その攻撃を逸らして無効化した。それぞれの所作が爆音を伴った衝撃波を生むが、これはジョーが『光の戦士』の力で制御して、仲間に累が及ばないように抑えている。それはすなわち、ジョーの持つ余裕をも表していた。
「そいつは後で追々に教えてやる。俺達『運命の戦士』が見ている真の敵を。そして、その戦いの先に目指しているものを」
それに対して、こう言う者があった。
「ジョー様。そしてかつての主、テュエール神よ。私にはそれが分かる気がします。敗北からこれまでの間に、それを学べた気がするのです。
テュエール神、あなたにもこれからの戦いの中で、それを知っていただけるよう願っています」
それは、テュエールの一撃で倒れたはずのフォーラだった。なぜか彼は、もとから負傷などなかったかのように、平然と立っている。
「フォーラ殿、いったいなぜ?」
ヴァルターが、喜びつつも不可解そうに尋ねた。これには、エリシアが答えた。
「『光の戦士』の力です。光の戦士は、身につけた武具の力を極限まで引き出し、『光の武具』とすることができます。
そして、その武具が発する光を浴びた味方は、死からも復帰を果たせます。逆に敵は、次第に生命を吸い取られ、死に至ります」
とてつもない話であったが、信じるほかはなかった。なぜなら、ヴァルター自身の疲労や負傷も、周囲の戦士達のそれらも、いつの間にか完全に癒されていたからだ。
「嫌だ! この戦いは僕が勝つんだ! そんなもの、知りたくもない!」
テュエールは大声でまくしたてながら、袈裟懸けの一撃を放つ。
しかしジョーは、易々と盾で受け止める。
「これが、私達の追い求めた男の真の実力か。まったくもう」
ユーノが、照れくさそうに笑いながら言った。ジョーの雄姿を見て、内心で我が事のように喜びながら。
テュエールはさらに斬り下ろす。しかしジョーに正面から剣を合わされ、弾かれる。
「まったく、とんでもない方に出会ってしまったものです」
そう言うソーンの表情も輝いていた。
テュエールが再び突くが、ジョーは盾を添わせて逸らし、体をひねって初めての斬撃を見舞った。
『光の剣』と化した『勝者の剣』は、テュエールの厚い盾を苦もなく切り裂き、宙に舞わせた。
「ジョーさん。あなたは、どのような強大な邪悪を前にしても、それに屈さず打ち払うのですね。あなたの生き様、この目にしかと」
リリベルが、戦いの全てを目に焼き付けようと目を凝らしながら、ジョーに敬礼した。
ジョーはさらに、光の帯を残しながら、超速の一撃でテュエールの右肩の鎧を飛ばす。
「今なら分かる。武闘大会で俺を助けてくれた『勝者の剣』の動きは、剣自身が覚えたあんたの剣技だったんだな。悪のザコ、いや、『光の戦士』ジョー」
ヒューイが、興奮気味につぶやく。
その時、テュエールが瞬間移動でジョーと距離をとり、異世界神の魔術体系である『真正魔術』の発動にとりかかる。
「これならどうだ! この場の全員の命を吸い取って、君への攻撃に換えてやる!」
その時、ジョーがぼそっと一言唱えた。
「Whole Force」
するとそれきり、何も起きなかった。テュエールに魔力は集まらず、周囲の人々の生命力も吸われない。
ジョーが言う。
「無駄だ。『光の戦士』はこの世のことわりに直接干渉できる。お前さんの魔術は抑え込んだ」
ユリが感極まって言う。
「私に再び生きる道をくれたジョーさん。あなたの雄姿、私は一生忘れません」
ジョーはテュエールに一言告げる。
「お返しだ。この世界の魔術を受けてみろ」
そして呪文の詠唱なしで、テュエールに攻撃魔法を叩き込んだ。しかも、同時に8発。地・水・火・風の4系統の精霊魔術の攻撃魔法を、それぞれ2つずつ。
べらぼうな攻撃だった。
神殿のすべてを吹き飛ばさんばかりの大爆発が、テュエールを襲った。
「馬鹿な……僕の魔法無効化能力が効かない」
「それも抑え込んだからな」
深手を負って、大量に出血しながらよろめくテュエール。
「ジョーさん、私の憧れの戦士。あなたの強さを見られて、私は幸せです」
感涙を浮かべながらそう言ったのは、女王マリアニータだった。彼女の姿を認めて、彼女を守るために駆けつけていたイングリットが、マリアニータに言った。
「陛下の命を受けて追っていた戦士が本物の戦士であればいいと、私はずっと願っておりました。
そして、その願いが叶いました。私もこれほどの幸せを感じることができて、とても嬉しく思います」
その話し方は、いつもの彼女のものではなく、とても落ち着いた、知的なものだった。
「それでも、これほどの強さを目にしてもいつか手合わせ願いたいと思うのは、私の戦士としての性なのでしょうね」
ジョーはさらに、神聖魔術、精神魔術をも8発ずつ叩き込んでいく。それらは確実にテュエールの生命力を削っていった。
もはや、テュエールは立つのがやっとの状態になっていた。
そんな彼に向かって、ジョーは言う。
「剣を合わせて確信した。やはりお前さんの力は、本当にすごい。
戦士として、手合わせできたことに感謝する」
そしてジョーは、再び剣を構える。
彼の姿を見ながら、ランスが、そしてエリシアが言った。
「ジョー、君と一緒に旅ができて、本当によかった」
「ジョー様。あなたはやはり、私が尊敬する素晴らしい戦士です」
そして、続けてエブリットが、そしてクローディアが。
「あなたに出会えたことを感謝します、戦士セイリーズ・ジョージフ・ドルトン。私が初めて敬意を抱いた男」
「ジョー。大好きなジョー。この世で一番大切なジョー。私はもう迷わない。今も、そしてこの先もずっと、そなたを信じる」
ジョーは、最後の一撃をテュエールに下すため、とびきりの魔力を剣に込めた。
大地が一度きり、大きく強く揺れた。『光の剣』の発する光が、ひときわ強さを増す。
「俺達とお前さんの未来のために、お前さんを倒して封印を実行する。この剣技で」
ジョーは緩やかに剣を引く。幻想的な光の紋様が、剣の通った空間に刻まれていく。
「霽月流、擘裂・貫心雷光弾(はくれつ・かんしんらいこうだん)」
ただ一度の、渾身の力を込めた最速の突き。雷光の矢となった刀身が、テュエールの体の真央を貫く。テュエールは朝日の色の光に包まれ、その中で形を崩していく。
そしてその体が跡形もなく崩れ去ると、ジョーは剣を掲げて、テュエールの立っていた場所に向けて敬礼した。
「時障壁展開、封印完了」