第5回
光風暦471年10月1日:思いを繋ぐ力
『まったく、この僕の考えを改めさせるなんて、大した奴だよ君は。お疲れ様、とでも言っておこうか』
エブリットが、燃えさかるような赤い光柱に包まれる。
そして彼が選んだ5人も、すぐさま同じ色の光柱に溶け込み、見えなくなった。
テュエールは完全に不意をつかれていて、何も反応できない。
やがて5本の光柱は、その温度を上げるかのごとく明るさを増し、白い巨大な光の塊へと変貌し、一つに溶け合った。
光の塊はしばらくその形を保ってから、さらに脹れあがり、そして一挙に爆ぜ散った。
そして、何が起こったのかと無言で見つめる者達の中心には、今までと変わらぬ姿のエブリットが立っていた。
「は、ははは。何が起きたのかと思えば、何も変わっちゃいない。人数が減っただけじゃないか。
頑張って唱えた術は、失敗だったのかな」
テュエールはエブリットを指さして嘲ったが、その後すぐに変化に気付く。
ぞくりとするほどの迫力を、エブリットに感じたのだ。彼の内面の力は、これまでとは桁違いに上昇していた。
エブリットは、無言で自分の手を見つめている。自らに起きた変化を、余さず把握しようとしているのだ。
そしてひとしきりすると、顔を上げた。その自信に満ちた眼差しは、倒すべき宿敵テュエールに向けられている。
「諦めずにここまで戦い抜いてきて、本当によかった」
その声も、エブリットのままだった。彼は残った仲間達を愛おしそうに見つめ、そして自分の胸に手を当ててテュエールに向き直った。
「こうして多くの仲間と心を通わせて、仇敵と戦うことができるのだから。
なんと心強いことか、なんと嬉しいことか」
そしてエブリットは自らの長剣を鞘へ戻すと、背中に手を回し、黒い束の長剣を引き抜いた。
「ジョー、この剣を使わせてもらいますよ。あなたが戻るまで、少しだけ」
主神オーゼスが作った聖なる「勝者の剣」。その刀身が姿を見せると、周囲の空気がさらに変わった。
ディクセン達は、そのあまりの凄まじさに身震いしていた。
テュエールが、傍らの銀髪の男に短く指示を出す。
「出番だよ」
そしてテュエールは、エブリット達に教えた。
「彼は、僕の新しい守護戦士だ。そこで倒れている裏切り者よりずいぶんと強いから、頑張ってね」
男は三歩前に進み、そこで自らの剣を抜いて、正眼に構えた。そして低い声でエブリットに告げた。
「来るがよい、小さき存在よ。殺してやろう」
それを聞き取ったエブリットは、男の懐に一気に飛び込んで剣を振るった。
男はすかさず剣を構え直し、エブリットの「勝者の剣」を防ごうとするが、まるで間に合わない。
男の剣を弾いたエブリットは、そのまま流れるような動きで男の肩口に斬り込んだ。
すんでのところで体をよじり、男は何とか致命傷を避けるが、体を浅く切り裂かれ、血が流れる。
剣を振るいながら、エブリットは驚いていた。なんという軽さだ。自らの期待以上に剣が動く。
そのとき彼は、この剣の能力を思い出した。自らが能動的に動き、持ち手を助ける能力を。
神とも互するほどの今のエブリットの能力をすら、さらに後押ししてくれるほどの動き。エブリットは内心で舌を巻くと同時に、この剣を貸し与えてくれたジョーに心から感謝した。
「私は、あなたの言うように小さな存在です。この戦いを通して、いやというほど思い知りましたよ」
エブリットはそう言うと、実に鮮やかな体裁きで、踊るように男へと飛び込み、再び彼の手傷を増やした。
「テュエールに故郷を滅ぼされ、たった一人生き残った時、私の頭には復讐しか残っていませんでした」
今度は男の足を切り裂く。男の動きも超人的なのだが、合体したエブリットが規格外に強いのだ。
「復讐さえできれば、後はどうでもいい。そう思って、どれだけの人々の気持ちをふみにじり、傷つけてきたことか。
しょせんは私も、テュエール達異世界神の勢力と似たようなものだったのです。でも!」
さらに男は切り裂かれていく。
「ここにいる仲間達、合体した仲間達は、それでも私と一緒に戦ってくれた。感謝しています。
そして、今なら分かります。こうなるように導いてくれたのは、ジョー。
私のように世をはかなむ者や、人間を憎む者。そうした者の一人一人を引き合わせて、互いが影響し合って変わっていけるように導いてくれたのです。
ジョー自身のことを憎ませたり、意識させたりして、彼の後を追うように仕向けたのです、一人一人。そして得難い出会いと転機をもたらしてくれた」
今度は男が反撃に出る。空気をすら傷つけんばかりの勢いで、エブリットの心臓に向けて速く重い突きを繰り出す。
しかしエブリットに対してはまったく効き目がない。まるで止まっているものを払いのけるかのように、いともたやすく打ち払った。
「今の私には、守りたいものができました。私はそれを守り抜きます。
そしてテュエールを倒して、平和になった世界をジョーに見せるのです。それが私にできる、ジョーへの精一杯の恩返しなのです」
そしてエブリットは、剣を大きく振りかぶり、男に向けて叫んだ。
「覚悟!」