第1回
光風暦471年10月1日:開戦
『悔しいよ、僕の誇りはどうなるっていうんだい。ここまでそれを支えに生きて、そして君臨してきたのに』
ランス達は、首都の城壁を出たところで、エドワードやイングリットの部隊と合流した。その人数は、両部隊を合わせて200人ほどであった。
異世界神と戦うには心許ない数だが、人口の少ないこの世界にあっては、れっきとした中規模の兵力なのだ。
そして、いくばくかの調整の後、テュエールの神殿に向けて出発した。
神殿は、首都から歩いて2日ほどの距離の、鬱蒼とした森林の中にあった。転送門を使えばある程度近くにも出られたが、部隊運用上の都合でこの部隊が途中の斥候を兼ねることとしたため、全員が徒歩で進軍した。
幸い途中に敵の布陣や伏兵はなく、神殿の近くまでは無事に進むことができた。開戦の時である翌日までは、ここで野営をして待機することとした。
「やけにあっさり進めたね」
ここまでの静けさをいぶかしみながら、ランスが言った。これに対して。
「おそらくテュエール神には、勝利に絶対の自信があるのでしょう。
だから、予告した時までは侵攻を決してしないのです。そして、おそらくはもう一つ理由があります」
テュエールに近しかった立場のフォーラが、静かに自らの推論を述べた。
「3日の時間を置くことで、できるだけ多くの戦士をこの国に集めさせようとしているのです。
そしてその戦士達を一掃するつもりなのでしょう」
フォーラの推論を受けて、ソーンがこう言った。
「だとすれば、テュエールの思惑どおりではありますね。現に『雷光の騎士』を含め、かなりの戦士がこの国に集まっていますから」
今度は、腰に吊った剣を確かめながら、リリベルが一同を鼓舞した。
「私達の力を合わせて、テュエールの鼻をあかしてみせましょう。この世界に住む私達の実力を存分に発揮すれば、どのような敵であっても、きっと勝てます」
そして翌朝、静かに開戦の時を迎えた。
眼前の神殿の様子に変化はない。しかし、まもなくイングリットのもとに、魔法による通信で連絡が入った。
固い表情でその連絡を聞いていたイングリットは、その場の仲間や部隊に、その内容を伝えた。
「各地で、テュエールの手の者の侵攻がはじまりました。さいわいにして我が国の部隊の応戦は早く、いまは善戦しているということです」
周囲の兵士達が色めき立つ。もたらされた知らせを、心強いことと受け取ったようだ。その士気は高い。
エドワードが、部隊に対して指令を下した。
「これより我々は、異世界神テュエールの神殿に突入する。部隊の任務は、退路を確保しつつ、神殿奥への突破口を開くこと。
『雷光の騎士』ランス達の進路を切り開くことを最優先とする。行くぞ!」
これを機に、部隊は鬨の声とともに、整然と神殿になだれ込んだ。
神殿の中には、ランス達を上回る規模の軍勢が待ち構えていた。
敵の反応も早く、たちまち大規模な戦闘が勃発した。
ランス達も、奥へ進むために前線近くに位置しており、すぐに敵との交戦が始まった。
自分達と変わらぬ姿をした敵兵が襲いかかってくる。その動きは俊敏で、誰をとってもかなりの手練れだった。
電光の速さで、ランスとソーンが敵を切り裂く。しかし、次々と波が押し寄せるように敵が向かってくる。
側面から襲いかかってきた敵は、ダンとナイが鮮やかに片づけた。
「腕を上げたな」
その様子にヴァルターが感心しつつ、攻撃魔法を叩き込む。一気に十人ほどの敵が地に伏した。
「ああ。結構頑張ったんだ、俺達も」
「この戦、私達もしっかり活躍させてもらいますよ」
その傍らから、ユリが敵に突入して、格闘戦で次々となぎ倒していく。相変わらず、ものすごい力だ。
そして、そのユリに一気に敵が押し寄せたところに、リリベルの剣が唸りとともに振り込まれ、そのほとんどを吹き飛ばした。魔剣「神の怒り」は失っているが、鮮やかな剣技にはいささかの衰えもない。
そこで踏みとどまった敵に対しては、レイザンテの長グリニスとヒューイが、個別に対処していく。
もちろん、エリシア達も大活躍している。エリシアの槍が重装備の敵兵をも貫き、ディクセンやユーノはユリと同じく格闘で突き進む。フォーラは攻撃魔法と支援魔法を使い分けながら、効率的に優勢を築いている。
「結構やりますね、私達も」
エブリットも自らの魔剣を振るって、鮮やかに血路を切り開いていく。
「敵も強いですが、これなら何とかテュエールのところまでたどり着けそうですね」
「わたしたちは、ここで部隊とともに敵の数をへらします。皆さんは先に進んでください。わたしたちも後から行きます」
エドワードとイングリットがそう応じ、これをもって軍の部隊と別動することになった。再会を約束して。