第1回
光風暦471年9月28日:思いの結集
『じゃあ、僕はいったい何のために今まで……。僕の正義は、かりそめのものだったのか。作られた、偽りのものだったのか』
いつかはこの時が来るとは予想していた。ただ、予想より少し早かった。
レグナサウト王国の首都、アリエスタNCLにある王城で、ランス達は真剣に話し合っていた。
異世界神テュエールの侵攻開始。3日後には、この国じゅうに敵が満ちることになる。
「3日後か。軍の展開は間に合うのかい?」
ランスがマリアニータに質問した。焦る様子は見せないが、あくまで真剣に。
「はい。いつかこの時が来ることは分かっていましたから、いつでも防衛にあたれるよう、訓練を指示していました」
ランスは、同じ表情のまま、視線をエドワードとイングリットに投じて質問した。
「エドワードとイングリットは、部隊の指揮に戻るんだよね」
その言葉に、エドワードは首を縦に振った。この緊急時においても、その実直な眼差しに変わりはない。
「はい。指揮をとりながら、部隊の一部と行動をともにします」
イングリットが、続けてランスに説明した。彼女のおっとりした口調も、いつもどおりだった。
「どこを敵の主力が襲撃するかわからない状況で、どこをせめれば一番効果的か。
それをかんがえた結果、わたしたちはテュエールのいる神殿をせめることにしたんです」
「なるほど。でも、軍団長が一番危険なところに行って大丈夫?」
そう言って腕組みをして考え込むランスに、エドワードは答えた。
「できるだけのことはやりたいのです。
万一の際には、残り二人の『四面の衛士』に指揮権を渡せるようにしてありますしね」
そこでエブリットが言った。人を食ったような雰囲気はなりを潜め、代わりに癖のない涼やかさが窺えるようになっている。
「私達が軍のことに口出しはできませんね。それより救世者殿、私達はどうします?」
ランスは目配せして笑った。
「ここでそれを訊くのかい?
エブリットの中では、答えは決まってるんじゃないかい?
そのために『合体の秘術』を習得したんだから」
エブリットは照れ笑いを浮かべてうなずいた。
「背中を押してほしかったのですよ。
では私達も同行させてもらいましょうか、テュエールの神殿へ」
それは、最も危険な選択。しかし、その場の誰からも反対意見は出なかった。
皆、それを覚悟して時を過ごしてきたのだから。
そして誰一人として、希望を捨てていなかった。
これをもって、話は決まった。
そしてここで、エドワードが一同に対して切り出した。意味ありげに微笑みながら。
「方針が決まったところで、皆様にお知らせがございます。
皆様と同行したいという人が、集まっておられます。今からここにお呼びします」
そして彼は立ち上がり、部屋の外に退出した。そしてしばらくして、大勢の人々を連れて戻ってきた。
「あなたは、レイザンテの長!」
「久しぶりです、ランスさん。あの時は名乗りもせず、失礼いたしました。グリニス・レイザンテと申します」
「貴様、ヒューイ! 武闘大会以来だが、ここで会うとはな!」
「へへ。ダン、だったよな。頑張って腕を上げてきたぜ」
「あなたはナハルの神殿の、ヴァルター司祭ですね」
「武闘大会で拝見した、ナイ殿だったな。突然だが、よろしく頼む」
「あなたはリリベルさん!」
「エブリットさん、久しぶりですね。私も微力ながら、この剣の技をもってお手伝いしますよ」
「あなたはソーン!」
「なんと、トワイライトか! どういう経緯で、この方々と一緒に? 以前とずいぶん雰囲気が違うようだが」
これまでの旅で出会った人々が、ランス達の後を追って集結していたのだ。
そして。
「ランスさん。嬉しいです、またこうして会えて」
「ユリ!」
思い人同士の再会も、ここで果たされることとなった。
そして一同は、心強い仲間が増えたことを喜び合い、戦勝を誓い合った。
「まったく、日頃の行いがものを言うよな、こういう時に。心強いぜ」
「いや、私達の行いは悪かったわよ」
そのようにディクセンとユーノが言い合い、事情を知る者の失笑を買ったりもしていたが。
「ご武運を。私もここで、できる限りのことをしてまいります」
翌日の朝、マリアニータが城門で皆を壮行する。
イングリットが恭しく頭を下げた。
「おねがいいたします、陛下。
いまいっそうの対策を、ぜひとも」
「対策?」
フォーラが尋ねた。
「ええ。諸外国とも連携して、てきの迎撃体制を、可能なかぎり手厚くしていただけます。
そのために陛下は、ずっとろくにねむらず、動いてくださっています」
イングリットの弁に、フォーラは驚き、マリアニータを見た。
見れば彼女は、ずいぶん憔悴していた。それでも彼女は健気に笑うと、言った。
「私も、私にできることをいたします。少しでも皆様の、そして世界の役に立てるように」
多くの人々と異世界神の、大きな戦いが幕を開けようとしていた。
そしてランス達は意を決し、テュエールの神殿を目指して出発した。