第11回
光風暦471年5月20日:お前ならできる
「町に入ったときに武道大会の話は聞いていたけど、まさか僕達がそれに関係してくるとはね」
ランスが肩をすくめながら、困り顔でそう言った。
これに対して、ジョーが腕組みしながら言った。
「要は、勝てばすべてよしってわけなんだよな。でもよ」
クローディアが、煮え切らないジョーの様子に首を傾げる。
「どうしたのだ、ジョー。勝つ自信がないなら、私が大会に出るが」
「ん……まあ、その辺のことが気になってるんだけどな。
剣の力がどのくらいなのか、そこんとこを量りかねてるもんで、どうすればいいのか考えてた」
そう言いながらジョーは、その答えを求めてヴァルターを見つめる。
「この場合、不幸なことと言うべきか。リリベルが振るう剣の力は、計り知れないほど強い。
大量の魔物の襲撃を、剣のたった数振りで鎮圧したのだ」
ヴァルターは、重々しい声でそう答えた。
ランスが、ますます困った表情になる。
「一筋縄では勝てそうにないね。いったいどうしたものか」
そこで我慢ならないとばかり、ヒューイが拳を振り上げて叫ぶ。
「どうしたものかって、勝つしかないだろ!
そうしたら、あいつはリリベル先生を返すって言ってるんだから!」
その声の大きさに一同は静まり返るが、やがてジョーがにやにや笑いながら言った。
「よく言ったな、そのとおりだ。
よしヒューイ、お前がリリベルさんに勝て」
「えっ」
突拍子もないジョーの発言に、ますます静まり返る一同。すかさず、ジョーはわざとらしい呆れ顔で問う。
「えっ、てのは何だ、ヒューイ?」
「な、何だじゃないだろ。俺でどうやってリリベル先生に勝てって言うんだよ」
ヒューイも、先ほどまでの勢いをすっかり失ってしまっている。
「なんだよ、偉そうなのは口だけか?
俺様のことを悪のザコだのと抜かしておいて、自分は根性見せられねえってか?」
からかうような口調だが、容赦はない。
恥ずかしさと怒りとで顔を真っ赤にして、ヒューイは反撃する。
「うるさい! じゃあお前は勝てるってのかよ、ザコのくせに!
リリベル先生の強さを知らないから、そんなことが言えるんだろ!」
対するジョーの答えは、至って明快だった。
「勝てる」
「嘘だ! でまかせだ! いい加減なこと言うな!」
むきになるヒューイに、ジョーは高笑いする。
「好きに言ってろ、腰抜け野郎。
まあ大会の当日は、黙って俺様の活躍を見てるこった。
みなぎる実力でリリベルさんに勝って、見事優勝するかっこいい俺様をな。
そうすりゃもうリリベルさんだって、『ジョー様、あなたの強さと優しさの虜になってしまいました。私は一生あなた様についてまいります』ってなること確実だぜ。
いやあ、未来はウハウハだな!」
悪党丸出しの台詞に、ヒューイは怒りを爆発させる。
「黙れ! お前なんかにリリベル先生を渡すもんか!
リリベル先生は、俺が守る!」
ついに出たヒューイの本心に、ヴァルター以下一同、驚きを隠せない。
クローディアが密かに、子供達に混じって頬を赤くしていたりもする。
そこでジョーが、にっと笑って、大きな手でヒューイの背中をばんと叩く。
「よし、よく言った! それでこそ男だ!
一緒に大会に出て勝つぞ!」
「う、うん……」
うまく乗せられたことに、ようやく気付くヒューイだった。
「でも実際、俺じゃ出てもすぐ負けちゃうよ」
冷静さを取り戻しつつ心配するヒューイに、ジョーが親指を立てる。
「心配すんな。この俺様が直々に、勝てる秘策を授けてやろう」
そして自分の背中に手を回し、まるで手品のように剣を一振り出してきて、ヒューイに手渡した。
黒い鞘に収められた、黒い柄の剣。自らが持つ魔力のせいか、ただならぬ気迫を漂わせるこの剣は、レイザンテでジョーが長に貸したものだ。
主神オーゼスが作った「勝者の剣」。
その所有者は、「運命の戦士」セイリーズ・ジョージフ・ドルトン。すなわちジョーの正体だ。
「こ、この剣は……?」
「とある戦士の剣だ。一週間で、こいつに馴染んでもらう。
剣の扱いや体裁きは俺様が教える。
大丈夫だ、お前ならできる」
そして一週間が過ぎ、武道大会の日がやってきた。