第9回
光風暦471年5月19日:再会
「その魔術によって実現できる事柄は、この世界の魔法とは比べものにならぬほど幅広い。
しかしその代わりに、使う力の大きさも尋常ではない。
術者自身の魔力では事足りず、周囲の生気を用いるのだ」
と話して、クローディアはジョーやランスの顔色を伺う。
「このような突拍子もない話を、お二人にしてよいものか迷ったが」
これに応じたのはランスだった。
「その心配なら、しなくて大丈夫。
『真正魔術』のことだよね?」
予想外の答えに、クローディアは眼を丸くする。
「異世界神が使う『真正魔術』のことは、今までに経験した戦いの中で知らされたから。
話の内容に抵抗はないよ」
「そうか……さすが『救世者』殿。やはりご存じであったか」
平然と答えるランスに、クローディアは感服する。
ひ弱そうな青年にしか見えないランスだが、やはり歴戦の勇士。常人なら決して知り得ないような知識も得ている。
「うん。その力のほども、身をもって知らされたことがある。
でも、その剣が『真正魔術』を帯びた剣なら、いったいなぜ人の手に渡っているのかが気になるね」
「そうだな」
考え悩むランスとクローディア。
そこを、ジョーが気楽な調子で結んだ。
「ま、神殿の二人もその経緯は知らないみたいだし、この謎はたぶん解けないさ。
とにかく言えることは、その剣が人の手に余る危険なおもちゃだってことだな」
ランスもクローディアも、真剣な顔をしてうなずく。
そしてジョーは、こう付け加えた。
「まあ……なんてえか、悪い奴が欲しがりそうなおもちゃだよな」
そして部屋を出た三人は面食らった。
ジョーの台詞がすぐにも真実味を帯びてしまったからだ。
聖堂の入り口で、二人の神官が男と話している。
どういうわけか、先日レイザンテで出会ったエブリットが、この神殿を訪ねてきているのだ。
「タイミングよ過ぎだぜ」
「ものすごく嫌な展開だね」
肩をすくめて笑うジョーに、苦虫を噛み潰したような顔をしているランス。
クローディアも先にエブリットから受けた仕打ちを思い出したのだろう、眉間にかすかな皺を寄せて、厳しい眼差しで彼を見据えている。
そんな三人に、いつの間にか神殿に戻ってきていたヒューイが声をかける。
「ねえお兄ちゃん、お姉ちゃん、悪のザコ。
あの人のこと、知ってるの?」
「うむ……もう会いたくはない相手だったのだが」
三人の様子を気にしながら、ヒューイも彼らと一緒にエブリット達の様子を眺める。
いや、正しくはヒューイの視線は、リリベルに向けられているようだった。いかにも心配そうで落ち着きがない。
エブリットはヴァルターやリリベルと話しているが、やがてヴァルターが少し下がった。そしてエブリットは、短くリリベルに何かを告げたようだった。
リリベルがそれに対して、これといった反応を示さないまま、エブリットはその場を立ち去った。
「いったい何だったんだい?」
ジョーが二人の神官に尋ねる。
「いえ……何でもありません」
明らかにそうではないと分かる態度でリリベルがそう答えたが、ジョー達はそれ以上問わず、しばらく黙って彼女を見つめていた。
その夜、ジョー達は神殿に身を寄せ、子供達に囲まれて和気藹々と過ごして眠りについた。
しかしその翌朝、事件は起こった。
リリベルが忽然と姿を消していたのだ。