第8回
光風暦471年5月19日:魔力の正体
それまでと全く違う内容を、ジョーが切り出す。
「その剣をいつ誰が作ったものなのかは、伝わっているのかい?」
「いえ、残念ながらまったく」
突然のジョーの問いに、戸惑いながらリリベルがそう答えた。
ヴァルターも、不思議そうにジョーを見つめながら問う。
「唐突な質問だな。その意図は何か?」
「いや、不思議な力を持った剣があるんだなあと思ったんだ。
で、どういう経緯でそんな物が作られたのか、知りたいと思ったんだ」
腕組みをしつつ小難しい顔をして答えるジョーに、ヴァルターがさらに問う。
「と言うと?」
ジョーは顔をあげた。
「人の生気を吸いとって力に換える剣なんて、聞いたことがない。
魔法の剣ってのは、普通はもっと別のものを力のよりしろにするもんだ」
「そういうものなのですか?」
リリベルが、ジョーの顔色を伺うように尋ねた。
一同、ジョーの口から魔法についての薀蓄が出るとは思っていなかったこともあり、すっかり意表を突かれている。
「おう。魔法の剣ってのは、その名のとおり魔法の力を帯びた剣だ。
そして魔法ってのは4種類。
精霊の力を使う精霊魔術。
神やら魔神やらの力を使う神聖魔術や暗黒魔術。
そして術者自身の精神力を使う精神魔術。これだけだ。
他人の生気を使うものなんかないぜ?」
「確かにそうだ」
深く納得しながら、ヴァルターがうなずく。
「だろ?
だいたい、人を守るはずの勇者が持っていた剣にしては、周囲を犠牲にするっていう能力が矛盾してる気がする。
それが気になって、剣の素性について尋ねたんだ」
一同は異口同音に、なるほどとつぶやいた。
いや、一人だけ沈黙している。クローディアだ。
ジョーがそれに気付いてクローディアを見やると、彼女は顔色を失って、何か物思いにふけっている。
「どうした、クローディア?」
ジョーの一言で彼女は我に返り、弾かれた様に身を起こす。
「い、いや! 考え事をしていた……すまぬ」
ジョーは親指を立てて、構わない旨を無言で伝えた。
そしてあっさり話を切り上げる。
「ヴァルターさん、リリベルさん、いろいろ訊いてすまなかった。
すっかり長引かせちまった」
「いえ、お役に立てず申し訳ありません」
「こちらからも話は終わったゆえ、後はゆっくり過ごしていただきたい。
じきに子供達も戻ってこよう。彼らと遊んでやっていただけると嬉しい」
こうして、部屋での密談は終わった。
しかし、二人の神官が務めに戻った後、ジョーの袖をクローディアがそっと引いた。
「ジョー、ランス。伝えたいことがある」
彼女の顔色はすぐれない。
ランスが心配そうに言う。
「どうしたの、クローディア?」
「先ほどの剣の力についてだが、心当たりがある」
クローディアは重々しく言った。
「周囲の人の生命力を用いて行使される魔法。
あれはおそらく、この世のものではない。
異界の神の力だ」
ジョーが片眉を吊り上げる。
「異界の神、か」
クローディアはうなずいて語る。
「異界の神は、この世界のものとは異なる魔術を擁している」
人造魔神である彼女が持って生まれた知識なのだろう。
自らがそうした存在であることを快く思っていない彼女は、苦悩まじりに、その知識をぽつぽつと披露していった。