第6回
光風暦471年5月19日:剣の力
「さて、ヒューイ達は行ったようだな」
神殿の奥の一室に招いたジョー達を前に、ヴァルターが口を開く。狭い部屋に、低い声が重々しく響く。
「話しておこう、メイナード殿のことを。そして、剣のことも話しておきたい」
そこで異口同音に、ジョーとランスとが訊き返す。
「剣のこと?」
しかし、その二人の表情は対照的だ。ランスは純粋な関心から尋ねたようで、片やジョーは、なぜ剣がメイナードに関係するのかと不思議そうにしている。
「うむ。
まあ聞かれよ。今後の皆様の旅の参考になるかもしれぬ」
三人に湯気が漂う紅茶を勧めながら、ヴァルターはこう切り出した。
「皆様は、剣についてどのくらいのことをお聞き及びか?」
これについては、ランスが答えた。
「かつてこの町の英雄が携えていた、という言い伝えを聞きました。
神から授かった、比類なき力を備えた聖剣だと。
この町を襲った危機から、英雄とともに町を守ったとも」
ヴァルターは深くうなずく。そしてランスに尋ねる。
「ではランス殿。あなたはその剣の力についてはご存じか?」
「いいえ。僕が聞いていたのはそこまでです。
そして、英雄の没後に剣が保管され続けてきたというこの神殿を、メイナードが訪ねたことしか存じません」
ヴァルターは、ランスの答えを受けて、ゆっくり言った。
「なるほど。
では、メイナード殿がなぜこの神殿を訪ねたのかはご存じないということだな」
「はい」
そこで、一瞬の逡巡が、ヴァルターの表情に伺えた。
「……メイナード殿は、剣の力の後始末をつけてくださったのだ」
そこでヴァルターは、おもんばかるようにリリベルを見た。
リリベルは、辛そうにうつむいたが、すぐに顔を上げ、ヴァルターの後を続けた。
「後は、私がお話しします。
実は、このイルバランの町は、剣の力を欲する魔物達の襲撃を、たびたび受けています。
そしてその襲撃が、つい最近にもあったのです」
そこで一呼吸おいて、リリベルは続けた。
「その時、担い手である私が、剣をとって魔物に挑みました」
線の細いリリベルが、剣を手に戦う姿は想像し難い。
それを聞いたランスが、少なからず驚いた。
「いかに聖剣があるとはいえ、もしやリリベルさんお一人で?」
「いえ、私が先陣を切りましたが、町の皆様と一緒に戦いました。
ですが苦戦を免れることができず、その時に決心して、剣の力を解放したのです。
それによって、魔物達は一瞬で焼き尽くされ、勝利を収めることができたのですが……」
ここでリリベルは、悲しそうに口をつぐんだ。
「剣の力の副作用が、町の人々にも及んだのです」
よからぬ話に、一同の顔が、一気に険しくなる。
「剣は強大な力の源として、人々の生気を欲したのです。
それによって、力尽きて倒れる方が続出して……そのなかでヒューイが亡くなりました」
三人は驚いて、思わず「えっ」と声をあげる。
しかし、すぐには頭の整理がつかず、それ以上の問いが出てこない。
やっとのことで、クローディアがまずこう言った。
「しかし、ヒューイは生きているではないか。
現にこうして私達は、彼に出会って話している」
その疑問もさもありなん、とリリベルはうなずく。
「はい。ヒューイは一度死に、そして蘇りました。
聖職にある私にも信じ難いことですが……。
その奇跡を施してくださったのが、メイナード様なのです」