第4回
光風暦471年5月19日:剣の担い手
すると、聞こえてくる声が少し静かになり、やがてぱたぱたと足音を響かせて、子供達が走ってきた。ここに住み込んでいるのだろうか。
「突然お邪魔して失礼……って、お前ら!」
「ああっ、ニセヒーローだ!」
「ほんとだ、悪のザコだ!」
ジョーと子供達は、互いに指を差し合って叫ぶ。言葉の内容は滅茶苦茶だが、これで結構楽しみ合っている。
「で、ザコは置いといて。お兄さん、お姉さん、礼拝に来たの?」
「なにっ、正義のヒーローを無視するな、お前ら!」
子供達は、好奇の眼差しをランスとクローディアに送っている。
「え、ええと。実は僕達、礼拝に来たんじゃないんだ」
「実は、会いたい方があって参上したのだが」
そしてクローディアは、用向きの主であるジョーに目配せする。
ジョーは、子供達を背後から抱え込み、高笑いしながら言った。
「剣の担い手殿に話を聞かせてほしいんだ。会えるか?」
子供達は、ジョーに抱えられてじたばたしながら相談する。
「なあ、どうする?」
「うんと……こいつ、悪のザコだけど悪くないみたいだし、いいんじゃない?」
「うんうん。お兄さんとお姉さんは、ちゃんとした人みたいだし」
「じゃあ決まりだな。お兄さん、お姉さん、会わせてあげる。ついでに悪のザコ、感謝しろよ!」
そして、子供達のリーダー的存在と思われる、栗色で短い髪の痩せた少年が、ジョーの腕から抜け出して奥へ走り出した。
「おう、感謝してやるぜ。あ、俺の名前はジョーな」
「俺はヒューイだ! じゃあ、ちょっと待ってろよ!」
素直で快活そうな少年だった。
やがてヒューイは、二人の聖職者を連れて戻ってきた。
一人は、豊かな顎鬚をたくわえた司祭。ゆったりした法衣を着ていても、筋骨隆々ぶりが伺えるほどのたくましさだ。
そしてもう一人は、長い黒髪を三つ編みにまとめた、若い女性。衣装から判断するに、助祭であるようだ。みなぎる活力を感じさせる司祭と対照的に、物静かで線が細い印象を受ける。
「司祭様、助祭様。この人達だよ」
と言って、ヒューイは脇に下がる。そして他の子供達と一緒に、わくわくしながら様子を見ている。
「うむ、よい目をした方々だな。
お初にお目にかかる。わしはヴァルター・カーミット。ここの司祭を務めておる」
「はじめまして。私はリリベル・ベインブリッジ。助祭でございます」
「突然お邪魔して申し訳ない。俺はジョー。冒険者をしている」
「ランス・ダーウィンです。ジョーと一緒に旅をしています」
「私はクローディア・グランサム」
と名乗ったところで、二人の聖職者は目をみはって驚いた。
「もしや、あなた様は『西方の聖者』様!?
このレグナサウト王国に入られたという噂は耳にしておりましたが」
そして二人とも、クローディアに対して恐縮してひざまづく。
「さようだが、そのようにかしこまられる存在などではない。
どうかお立ちになっていただきたい」
「西方の聖者」クローディアの知名度は、ここでも絶大であるようだ。
「恐縮にございます。
しかし聖者様。このようなところに、いったいどのようなご用向きで?
私どもにお話を伺いたいとのことですが」
そこでクローディアは、ジョーに目配せして本題を切り出させる。
「剣の担い手殿に、教えてほしいことがあるんだ。
ある男の消息について。
お時間はいただけるだろうか?」
助祭リリベルが、司祭ヴァルターを伺うように見上げる。
ヴァルターは、ゆっくり大きくうなずいて、リリベルに先を促した。
そしてリリベルは、ジョー達に向き直り、言った。
「はい。私が担い手でございますが、私でお役に立てますなら」