第4回
光風暦471年5月11日:宴の中で
町に戻った三人は、今が夜中であるにもかかわらず、大きな歓声をもって迎えられた。
「すごい、すごいぞ!」
「あんなに魔物がいたのに、あっという間に追い払ったなんて!」
恐れおののきながらも、人々は一部始終を食い入るように見守っていたのだ。
そのため、クローディアの鮮やかな手際も、語るまでもなくすっかり知れ渡っていた。
「お嬢さん、お見それしました。あれほど鮮やかに呪文を操るとは!」
「いや、それほどでもないが」
クローディアはすっかり町の人に囲まれて、そしてもてはやされていた。
「本当にあなたは、私達の命の恩人です!」
「何とお礼を申しあげればよいか」
「いや、私は当然のことをしたまで。お礼には及ばない」
口々に感謝の言葉を述べられ、クローディアは困ったような笑顔を浮かべて、言葉少なに答えていた。
彼女はこうしたもてなしには慣れずに照れているらしく、助けを求めるようにジョー達を見た。
ジョーは目が合うと、ふんぞり返って笑い声をあげる。
「いいじゃねえかよ。感謝されてんだから、素直に浮かれてろって」
ランスも、困ったような顔はしているがにっこり笑ってうなずき、ジョーに賛同している。
クローディアは観念したように溜息をついて、今しばらく、喜びを満面に表す人々にもみくちゃにされていた。
そして翌日、ささやかながら、町の恩人への祝いの宴が催された。
住人がめいめいに作った料理が広場に持ち出され、数は少ないながら真心のこもった飾り付けも、あちこちにされている。
「急ごしらえですので大したことができず申し訳ないのですが、どうかごゆっくり楽しんでいらしてください」
宿屋の主人にそう言われ、クローディアやジョー達は広場に連れ出された。
広場に出たクローディア達の姿を目にするや、人々が再び歓声をあげる。
「皆様のお気持ち、この上なく嬉しい。心から感謝している」
宴に驚きつつも、宿屋の主人に深く頭を下げるクローディア。
「んでもさ、ご主人。俺やランスも呼ばれちまっていいのかい?」
「ジョーの言うとおり、僕たち、何もしてないからね」
ジョーはしれっと、ランスは萎縮ぎみに、主人に問う。
主人の答えはあくまでも明るい。
「もちろんだよ。二人だって私達を助けに、一緒に町の外へ向かってくれたんだ。
その勇気は、十分にお礼に値するものだ」
「嬉しいことを言ってくれるね。んじゃ遠慮なく、俺達も楽しませてもらうぜ」
「ああ。そうしてくれると嬉しいよ」
そうして主役を迎えて、宴が始まった。
人々と一緒に、思い思いに食事をとり、話し込む三人。
三人とも人々の受けがよく、和やかな雰囲気で時が過ぎていった。
そしてもう宴も終わろうかという、夕刻のこと。
町の住人の一人が、クローディアにこう質問した。
「クローディア様は、どうしてあんなにお強いんですか?」
クローディアは、至極真面目な顔をしつつ、静かにこう答えた。
「強いかどうかは何とも申せぬが、一つには努力があったからであろうか。
呪文の勉強は、今も真剣に続けているゆえ。
そしてもう一つには、私が人間ではないことがあるのであろう」
「え? 人間ではない?」
住人達やランスが、驚きの声をあげる。
反面やはりジョーだけは、その話を聞きながらも、平然と食事を続けているのだが。
クローディアは平静なまま、うなずいて答える。
「私は、人々の手によって作り出された存在だということだ」
「人々に作り出されたって……誰でもそうなんじゃないですか?」
「私は母親から生まれたのではなく、ある国の研究施設で『製造された』とのことだ。
そして私は、私を『製造した』人々によって、人間とは異なる力を与えられている」
それを聞いて人々は一瞬ざわめくが、浮かれた祝賀の雰囲気がそれをはぐらかした。
「まあ、そんなことはどうだっていいさ。
クローディア様は、私達を救ってくださった恩人なんだから」
そして再び明るい騒ぎが始まり、すぐにその話題は忘れ去られた。
しばしの時がさらに過ぎて、いよいよ宴も終幕にさしかかった時のこと。
「大変だ!」
息せき切って駆け込んできた住人の一人が、宴の場に急の知らせを告げた。
「魔物だ! また押し寄せてきた!
今度は前より数が多い!」
宴の浮かれようは一瞬で消し飛び、場の雰囲気が一転した。