異聞録第2回
光風暦471年5月15日:追跡者の思惑
風の心地よい、よく晴れた日の昼下がり。
人の姿をした悪魔達は、イングリットに連れられるように、気落ちした様子で歩いていた。
悪魔達にとっては、よい天気が心地いいわけでもなく、むしろお目付役のように自分達の自由を奪う「東方の衛士」イングリットの存在が目障りなのだ。
しかし、イングリットはそんな様子を気にも留めていない様子だ。よほど鈍いのか、あるいはよほどの大人物なのか。しかし、彼女の舌足らずな話し方から判断するに、前者であるような雰囲気が漂っている。
「ねえ、ディクセンさん、ユーノさん」
「何だ、イングリット」
呑気なイングリットへ、いちいち反抗的に悪魔ディクセンが返す。
しかしイングリットは、やはり調子を崩さない。
「戦士をおいかけて、いったいどうするつもりなんですか?」
単刀直入な問いに、一瞬、ディクセンは答えに詰まる。
「き、決まっているだろう!
俺達はあいつに復讐するのだ!」
イングリットは、無邪気な眼差しをディクセンに向けて、首を傾げる。
「俺達の悪魔としての誇りをずたずたに傷つけたあの人間に、報復してやるのだ!
今度は絶対に後れはとらない!
そうだな、ユーノ?」
突然話を振られて、悪魔ユーノも答えに詰まるが、ため息まじりにこう言った。
「まあ、私は勝負とかにはあまり興味ないんだけどね。
でも、なぜ私達が負けたのか。そしてあいつが何者なのかは、知りたいと思うわね」
イングリットは、にっこり笑ってうなずいた。
「わたしも、ユーノさんとおなじ興味をもってます。
こうしてやってきたのは、女王陛下の仰せによるものなんですけど、いち個人として、その戦士がどういうひとなのか、見てみたいです」
そこで言葉を切って、やおらこう継ぎ足す。
「そして」
悪魔達はその話に興味を抱いたらしく、割と素直に訊ねる。
「そして?」
「ディクセンさんのように、できるならわたしも勝負をしてみたいです、そのひとと。
ひとりの戦士として」
それからしばらく歩いて、三人は、このようなやりとりを交わした。
「そういえばディクセンさん、ユーノさん。
戦士たちがむかったという町のこと、ごぞんじですか」
「知らん」
「ええ。私も」
「このさきにあるのは、イルバランという町なんですけど、ちょっとかわった話があるんです」
「いったい何の話だ。人間どものことになど、興味はないぞ」
「そう言ってるくせに、あの男のことは必死になって追いかけ回してるんだからねえ」
「う、うるせえぞユーノ。……で、いったい何の話だってんだ、イングリット」
「魔剣のいいつたえがあるんです」
「なに、魔剣だと!?」
「はい。ひとの命をすすって、それを力のみなもとにする魔剣だそうです」
「ふうん……そんなものがこの近くにあるのね」
「はい。町のだれかの家系に、伝わっているんだそうです」
「じゃあ、あいつの行動の目的は、その魔剣を手に入れることなのか?」
「わかりません。でも、その魔剣が関係している可能性は、たかそうですね」
-第2部へ続く-