第12回
光風暦458年11月25日:希望を胸に
『な、何だこれは! これが君の心なのか? 君の考えなのか? 君が知ったことなのか?』
テュエールが逃げ去った後、クローディアはジョーに駆け寄った。
「すごい。ジョー、そなたは」
「僕にも信じられないよ。でも、とにかく無事でよかった」
護衛の騎士も、幸い気を失っていただけだった。
そしてジョーから発せられていた気迫も消え去り、すっかり元どおりになった。「時空剣」の効果が消えたのだ。
「ジョーの言葉が本当なら、これでそなたの将来の勝利が一つ、奪われることになるのだな」
その戦いが何かまで知っているクローディアであったが、それを口にすることはできなかった。
「うん。でもいいさ、悔いはないよ。その時はその時で、何とかするさ」
そう言って、屈託なく笑うジョーであった。そして未来の彼は、実際にそうした。
その結果、彼はどうなったのだろう。しかしクローディアには、確信めいた思いがあった。
ジョーは死んでいない。
今の圧倒的な力を見たことが、彼女にそうした確信をもたらしているのだ。
クローディアは幸せそうに微笑して、そして言った。
「そうだな。そなたならきっと、そうできる。そして最後には勝利を収められる。
私はそう信じている」
結局その後、「光の戦士」エイルウィンのいるという洞窟に行ったが、会うことはできなかった。
その洞窟の奥には、ジョーの記憶と同じ姿の長身の青年の形をした彫像が、ひっそりと立っているだけであった。
この彫像は、おそらく「光の戦士」そのものだ。そして時が来るまで、自らを石にして休眠しているのだろう。クローディアはそう推測を述べた。
その推測が正しいなら、今が休眠を解くべき時ではないのだろう。
神を倒す力を持つという戦士と話せたなら、きっと将来のテュエールとの戦いの時に、心強い味方になってくれただろう。
そのことを思うと残念ではあったが、クローディアは不思議と吹っ切れていた。
自らの思い人の、神をも凌ぐ戦闘能力を目にできたからだ。
そして彼女達は、そのままゼプタンツへ帰投した。
「ありがとう、ジョー、騎士殿。遠い道のりを案内してくれて。私はこれで帰らせていただくことにする」
未来に希望を抱いたクローディアは、テュエールのもとに戻る決心をつけたのだ。その顔には、悲しみの色はない。
「こちらこそだよ、クローディア。大変なこともあったけど、これをきっかけに、僕は変わっていける気がする。きっとね」
ジョーも、とても爽やかに笑っていた。その顔立ちに、少し自信が混じってきたようにも思える。
「うむ。そなたはきっと変わっていける。そしてきっと、そなたが求める本当の強さを手に入れられる」
きっぱりと言い切ったクローディアに、ジョーははにかみながら言った。
「あのね、クローディア。この先また会えたなら、僕は何があってもクローディアを守るよ。約束する。
その時までに、きっと本当の強さを手に入れてみせるよ」
クローディアは、かすかに頬を染めて答えた。そしてその場から姿を消し、未来へと帰った。
「ありがとう。ふつつか者だが、よろしく頼むぞ」
ランス達がハイ・ダリスに入ってから3か月ほどが過ぎ、ついにエブリットは合体の秘術「Merge」の習得に至った。
「心よりの感謝を申し上げます、陛下。
私達はこれよりレグナサウトに戻り、マリアニータ陛下とともにテュエール打倒の作戦を練ります」
エブリットは、とてもいい笑顔を見せるようになっていた。アルゴスの立派な人格に影響を受けた部分や、この3か月で培った自信が、その笑顔からはっきりと窺えた。
「幸運を祈る。離れていても志は同じだ。互いに勝利を目指して邁進していこう」
アルゴスは、エブリットと固い握手を交わした。
それを見守るランス達も、一皮むけたいい顔をしていた。この間に戦力も人格も、破竹の成長を遂げていた。
敵は強大だが、一同は等しく自信に満ちていた。
そして一同は、アルゴスに戦勝を誓い、レグナサウトへと戻った。
久しぶりに首都アリエスタNCLの王城に戻ると、マリアニータと話した会議室に通された。
その間、周囲の兵士にこれまでと違う雰囲気が感じられた。
それが杞憂に終わればよかったのだが、再会したマリアニータから、このように告げられた。
「皆様、無事なお戻りを労いたいところなのですが、つい先刻状況が変わりました。
テュエールの使いを名乗る者から、宣戦布告がもたらされました。
3日後に、国土中央部に築いた我が神殿より、レグナサウト王国全土に対して侵攻を始める」
そしてイングリットとともに女王のそばに控えるエドワードから、こう補足された。
「我が勢力には、多数の神が含まれる。人造魔神スルティエ・エリシアのほか、多数の神を順次投入するので、せいぜい善戦せよ。
そう書かれて、布告は結ばれていました」
-完・第6部へ続く-