世界と黒天王6・第13回

光風暦471年10月1日:武神の思惑

 銀髪の戦士メイナード、いや、「世界」を司る異世界神リベ・ガルフェンは、ジョーの呼びかけに微笑した。

「久しいな、セイリーズ・ジョージフ・ドルトン」

 ジョーは、旧知の友に語りかけるように、遠慮なく話した。

「さんざん俺に追いかけさせて、一仕事までさせて、やっと顔を出す気になったか。まったく、とんでもない奴だぜ」

 言葉だけを見れば非難にも取れるが、当のジョーにそのつもりはない。肩をすくめて笑っている。

「気付いていたのか」

「あったり前だろ。お前さんの足跡をたどったら、これだけ分かりやすくテュエールのところに行き着いたんだからよ。

これがお前さんの誘導じゃなければ、何だって言うんだよ」

 異世界神と「光の戦士」。その存在自体が、互いに相容れない存在同士。だが両者は、互いを見ながら笑っていた。

 そしてジョーは、ガルフェンに質問する。

「まともな答えは期待しちゃいねえが、ガルフェン、なぜ俺にテュエールを倒させた」

 ガルフェンは、しばしの沈黙を挟んで、静かに言った。

「この世界は面白い」

 的はずれなようだが、それが寡黙なガルフェンの答えだった。

 それが返答の全てと思われたが、しばらくして彼は、少しずつ話し始めた。

「俺は強い者が好きだ。それが俺の価値観の全てだ」

 そして、さらに間を空けて、ガルフェンは続ける。

「この世界に生きる者は強い。それは武力においてのみではない。俺の期待を超える、様々な強さを具えている。

そのような者が住む世界を、他の多くの神々の意思のままに滅することには、俺は賛同できない」

 ジョーは、呆れ顔で笑った。

「まったく、つくづく変わり者の神だな、お前さんは。

とりあえず、世界の危機の排除に協力してくれたことに、礼でも言うべきか?」

「俺は、この世界を守ろうとしたわけではない。ただ、この世界の者の自衛に委ねただけだ」

 顔色一つ変えず、つっけんどんな答えを返すガルフェンに、ジョーはわざとらしくため息をつく。

「ほんと変わってないな、お前さんは。もうちょっと自分自身を擁護するとか、そんなのがあってもいいんじゃないか?」

「そのようなことに興味はない」

 ジョーは、「やれやれ」とつぶやいた。しかし、その顔は満足そうであった。いろいろ言ってはいるが、ガルフェンの木訥さが好きなのだ。ジョー本人は、それに気付いていないようであるが。

「まあいいや。そろそろ本題に入らせてもらうぜ」

 そしてジョーは、ガルフェンに対して切り出した。自分がメイナード=ガルフェンを追っていた目的について。

「もう、ここまでの旅で答えは出たような気はしてるんだが、俺は何事も白黒はっきりさせたいタチでな。

破壊し尽くされたボルティスザーンの町で、お前さんが何をしていたのか、それをどうしても知りたい」

 そしてジョーは、過去の出来事を確認するために、そしてこの場に居合わせる仲間に説明するために、委細を話し始めた。

「俺の仲間達が大勢暮らしていた、ゼプタンツ王国のボルティスザーン。10年近く前にその仲間達が、一人を除いて皆殺しにされた。そして、お前さんはその廃墟に一人立っていた。

俺はお前さんを仲間の仇と思って、剣を抜いて襲いかかった。

でもお前さんは、俺と戦いもせず、ボルティスザーンが密かに奴隷売買で栄えていたこと、その真偽は、奴隷として捕らえられていた一人の生き残りの少女が知っていることを俺に教えた。

そしてお前さんが去った後、その少女から、お前さんの言葉が本当だということを知らされた」

 長い話を途中で区切りながら、ジョーは続けていく。

「俺は、どうしていいのか分からなかった。どうするべきだったのか分からなかった。

それから長い間、考え続けた。そして結論に至った。

どう頑張っても、過去は変えられない。だから過去のことで悩むのはやめた。これからは同じことを繰り返さない。それで十分だと思った。

その代わりに一つだけ知りたいんだ。お前さんがボルティスザーンを滅ぼしたのかどうか、それだけを。

これからも続く異世界神との戦い、そしてその先に待つ戦いに臨むために、どうしてもそれだけを知っておきたいんだ」

 そして最後に付け足す。

「要は、お前さんが敵なのかどうか、それだけを知りたいんだ。この先に待つ戦いに臨むためにも、どうしてもそれだけを知っておきたいんだ。

教えてくれ。真実はどうなんだ」

 しかし。ガルフェンは何も答えない。その真意を窺い知ることもできない。

 その様子に、ジョーは観念して苦笑する。

「やっぱり、口で答える気はないか。

つくづく、根っからの戦士だな、お前さんは」

 そしてジョーは「光の剣」を自らの真正面に構え、ガルフェンに言った。

「こういうことだろ?」

 ガルフェンは、満足そうに微笑み、自らも背中の両手剣を抜き放った。

「そういうことだ」

 言葉ではなく、剣で語り合おうとしているのだ。

「全力で行く。お前も全力で来い、セイリーズ・ジョージフ・ドルトン」

 そう言うとガルフェンは、閉じていた右目を開き、上段に構えをとった。

 その途端である。

 この世の全てを覆い尽くし、押し潰さんばかりの闘気が、ガルフェンから発せられた。

 この場の一同は、既にテュエールとジョーとの戦いで、この世のものとも思えぬ強さの闘気の激突を体感しているが、この闘気はそれどころではなかった。

 これが、最高位の異世界神「リベの六大神」の力なのか。

 この世が滅ぶのではないか。

 そんなことすら思わせるような、形容しがたい恐怖がそこにあった。