世界と黒天王6・第2回

光風暦471年10月1日:開戦

『悔しいよ……僕の誇りはどうなるっていうんだい。ここまでそれを支えに生きて、そして君臨してきたのに』


 ランス達は、首都の城壁を出たところで、エドワードやイングリットの部隊と合流した。その人数は、両部隊を合わせて200人ほどであった。

 異世界神と戦うには心許ない数だが、人口の少ないこの世界にあっては、れっきとした中規模の兵力なのだ。

 そして、いくばくかの調整の後、テュエールの神殿に向けて出発した。

 神殿は、首都から歩いて2日ほどの距離の、鬱蒼とした森林の中にあった。転送門を使えばある程度近くにも出られたが、部隊の運用上、この部隊が途中の斥候を兼ねることとしたため、全員が徒歩で進軍した。

 幸い、途中に敵の布陣や伏兵はなく、神殿の近くまでは無事に進むことができた。開戦の時である翌日までは、ここで野営をして待機することとした。

「やけにあっさり進めたね」

 ここまでの静けさをいぶかしみながら、ランスが言った。これに対して。

「おそらく、テュエール神は、勝利に絶対の自信があるのでしょう。

だから、予告した時までは侵攻を決してしないのです。そして、おそらくはもう一つ理由があります」

 テュエールに近しかった立場のフォーラが、静かに自らの推論を述べた。

「3日の時間を置くことで、できるだけ多くの戦士をこの国に集めさせようとしているのです。

そしてその戦士達を一掃するつもりなのでしょう」

 フォーラの推論を受けて、ソーンがこう言った。

「だとすれば、テュエールの思惑どおりではありますね。現に『雷光の騎士』を含め、かなりの戦士がこの国に集まっていますから」

 今度は、腰に吊った剣を確かめながら、リリベルが一同を鼓舞した。

「私達の力を合わせて、テュエールの鼻をあかしてみせましょう。この世界に住む私達の実力を存分に発揮すれば、どのような敵であっても、きっと勝てます」


 そして翌朝、静かに開戦の時を迎えた。

 眼前の神殿の様子に変化はない。しかし、まもなくイングリットのもとに、魔法による通信で連絡が入った。

 固い表情でその連絡を聞いていたイングリットは、その場の仲間や部隊に、その内容を伝えた。

「各地で、テュエールの手の者の侵攻がはじまりました。さいわいにして我が国の部隊の応戦は早く、いまは善戦しているということです」

 周囲の兵士達が色めき立つ。もたらされた知らせを、心強いことと受け取ったようだ。その士気は高い。

 エドワードが、部隊に対して指令を下した。

「これより我々は、異世界神テュエールの神殿に突入する。部隊の任務は、退路を確保しつつ、神殿奥への突破口を開くこと。

『雷光の騎士』ランス達の進路を切り開くことを最優先とする。行くぞ!」

 これを機に、部隊は鬨の声とともに、整然と神殿になだれ込んだ。

 神殿の中には、ランス達を上回る規模の軍勢が待ち構えていた。

 敵の反応も早く、たちまち大規模な戦闘が勃発した。

 ランス達も、奥へ進むために前線近くに位置しており、すぐに敵との交戦が始まった。

 自分達と変わらぬ姿をした敵兵が襲いかかってくる。その動きは俊敏で、誰をとってもかなりの手練れだった。

 電光の速さで、ランスとソーンが敵を切り裂く。しかし、次々と波が押し寄せるように敵が向かってくる。

 側面から襲いかかってきた敵は、ダンとナイが鮮やかに片づけた。

「腕を上げたな」

 その様子にヴァルターが感心しつつ、攻撃魔法を叩き込む。一気に十人ほどの敵が地に伏した。

「ああ。結構頑張ったんだ、俺達も」

「この戦、私達もしっかり活躍させてもらいますよ」

 その傍らから、ユリが敵に突入して、格闘戦で次々となぎ倒していく。相変わらず、ものすごい力だ。

 そして、そのユリに一気に敵が押し寄せたところに、リリベルの剣が唸りとともに振り込まれ、そのほとんどを吹き飛ばした。魔剣「神の怒り」は失っているが、鮮やかな剣技にはいささかの衰えもない。

 そこで踏みとどまった敵に対しては、レイザンテの長グリニスとヒューイが、個別に対処していく。

 もちろん、エリシア達も大活躍している。エリシアの槍が重装備の敵兵をも貫き、ディクセンやユーノはユリと同じく格闘で突き進む。フォーラは攻撃魔法と支援魔法を使い分けながら、効率的に優勢を築いている。

「結構やりますね、私達も」

 エブリットも自らの魔剣を振るって、鮮やかに血路を切り開いていく。

「敵も強いですが、これなら何とか、テュエールのところまでたどり着けそうですね」

「わたしたちは、ここで部隊とともに敵の数をへらします。皆さんは先に進んでください。わたしたちも後から行きます」

 エドワードとイングリットがそう応じ、これをもって軍の部隊と別動することになった。再会を約束して。