第2回

光風暦471年5月18日:暮れなずむ街角

 暮れなずむイルバランの町に入ると、それまでと違った空気が感じられた。

 生き生きした人の気配を、町全体から感じるのだ。

 仕事を終えて、歓談しながら家路につく人。店じまいを間近にして活気づく市場の喧騒。

 家々の窓には温かな灯が浮かび、夕食のいい匂いが漂う。

 それは、町に暮らす人々のみならず、長きを歩いた旅人の心をも癒してくれる。

「この町は活気があるな」

 自然に頬をほころばせつつ、クローディアが言う。

「うん。大きな町だというのもあるけど、それだけじゃない。

みんな、とても楽しそうに暮らしてるね」

 と答えたランスも、嬉しそうに周りを見回している。

「それに……ねえクローディア。子供が多いと思わない?」

 改めて周囲を見渡すと、確かに子供が多い。

 皆、日が暮れるぎりぎりまで、時を惜しんで楽しそうに遊び回っている。

「この活気の源は、子供の姿なのかもしれないな。

元気な子供が多いのは、よいことだ」

 そう言って優しい眼差しで子供達を見つめるクローディアは、聖者そのものだった。

 ランスは、そんなクローディアにしばらく目を奪われていたが、不意に我に返り、慌ててこう言った。

「あれ? ジョーがいない」

「本当だ。いつの間に?」

 二人して、きょろきょろとジョーを探す。

「……いた」

 ランスが指差した先で、ジョーは子供達と一緒になって遊んでいた。

「い、いつの間に」

 とクローディアが呆気にとられたように、この一瞬でジョーは、子供達にすっかり溶け込んでいる。

「よう、デカいあんちゃん、どこから来たんだよ」

「おう。俺様は正義の国から来たヒーロー、ジョー様だ!」

「うそつけ。悪人づらのくせに!」

「な、なんだとヒーローに向かって!」

「ニセヒーローだ!」

「悪のザコだ。やっつけちゃえ!」

「うお。やめろ、やめやがれ、てめえら!」

 子供達と一緒になって遊んでいるジョーを、二人は呆然と見ている。

「ジョーはいつも、ああなのか?」

「うん。ジョーだから……」

「そうか……」


 その晩、三人は宿屋で食事をとりながら、主人と話をしていた。

「そういうわけで、この町に伝わるという『剣』の担い手に会いたいんだ」

 とジョー。

「なるほど。担い手様が、あなたの探している戦士の消息を知っているというわけだね」

 食器を拭きながら、主人が応じる。

 ジョーが探している人物は、様付きで呼ばれたように、町の人々の尊敬を集めているようだ。

 主人はジョー達に向かって、穏やかにこう続けた。

「見たところあなた達は悪人ではなさそうだし、そういうことなら、安心して担い手様を紹介できるよ」

「ありがてえ。

明日にもその人に遭いに行きたいんだが、所在を教えてもらえないかな」

「ああ。担い手様は、この町の神殿におられるよ。

そこに行って尋ねてみたら、すぐ分かるはずだ」