第1回

光風暦471年5月18日:次なる町へと

「今日もいい天気だぜ。昼寝したくなるなぁ」

 天を衝くような大男が、平原の街道を歩きながら伸びをしている。

 逆立つほどに短い金髪の男で、引き締まった筋肉質の体つき。切れ長の青い目に、筋の通った高い鼻。目を見張るような好男児の容貌である。

 ただし黙ってたたずんでいれば、だ。

 その表情や動作には、あまりにもしまりがなく、どう努力しても冴えないぐうたらにしか見えない。

 彼の名はジョー。この地レグナサウト王国をさすらう旅人だ。

 ジョーは、あくびをしながら同行者の男女に同意を求める。

 栗色の短い髪の少年が、困った顔で何かを言おうとするが、それと同時にもう一人の同行者、銀色の長い髪の少女が一蹴する。

「ならぬ」

 少年の方の名はランス。そして少女の方の名はクローディアという。

 ランスの見かけは、目鼻立ち、体格ともにジョーと違って幼く、そして柔和な印象を与える。

 決して背が低いわけでもなく、実際の年齢もジョーの1つ年下でしかないのだが、かなり雰囲気は違う。さらに付け加えておくと、ジョーと違って実直で勤勉そうにも見える。

 一方クローディアは、ランスと同じく幼い顔立ちで、体つきも小柄。

 しかし滅多に見かけることのない銀色の髪や紫の目、あるいはその口調が、人々に無意識のうちに神秘性を植え付ける。と思われるのだが。

「ちぇ。ちょっとぐらい、いいじゃないかよ」

「もうすぐ町なのだから、我慢するのだ。

この前など、寝て目が覚めたら夜だったではないか。もうあのような目に遭うのはごめんだ」

 と、だだをこねるジョーに切り返して、頬を膨らませてむくれている。

 このクローディア、はるか西方のアリミア王国で数々の善業を重ね、「西方の聖者」と呼び慕われた人物なのだが、こうした様子を目の当たりにすると、とてもそうとは思えない。

 普通の女の子と言うには口調が変だが、それでもほんの数日前と比べて、別人のように活発になっている。

 ジョーの人となりが、彼女の内面を変えつつあるのだ。この大雑把な大男は、人の心を解きほぐす、不思議な力をもっているのかもしれない。

「仕方ないなあ。んじゃ行くか」

 あっさり根負けしたジョーは、クローディアに引かれるようにして歩いていく。そしてランスも、苦笑いしながら二人と並んで歩いていく。

 そして不意に、クローディアが問い掛けた。

「前から聞きたかったのだが、二人はなぜ旅をしているのだ?」

 ランスは、少し当惑したような顔をして、ジョーと目を合わせる。

 ジョーは、にかっと他意のない笑顔をランスに向けてから、クローディアにこう答えた。

「会いたい奴がいるんだよ」

「会いたい方とは?」

 ジョーはほんの一瞬空を見上げて、そしてそのまま、再び伸びをする。

「戦士だ。名前はメイナード。ちっとばかし、昔にあってな。

もう一度会ってやろうと、そいつの足跡をたどってるんだ」

「もしや、仇なのか?」

 恐る恐る尋ねるクローディアに、ジョーは伸びをしたまま答えた。

「そんな仰々しいもんじゃないよ。ただ、そいつが何を考えてやがるのか、知りたいだけなんだ」

 クローディアは、よく分からないと首を傾げ、肩をすくめる。

「ま、詳しいことは追々に話すぜ」

 そして三人は日暮れを前に、さしあたっての目的地、イルバランの町へと入っていった。